クライテリア

批評誌『クライテリア』によるブログです。

「なんか面白いマンガないかなー」という、あなたへ

真実はいつもひとつ!はコナンくんやけれど、マンガの『名探偵コナン』に「真実はいつもひとつ」は出てこない*1というんは有名な豆知識でして、実際、真実となる回答はひとつではないわけですよ、「なんか面白い漫画ないかなー」への応答は。

でもでも「人によって好みはちがうんやから」と逃げとっても始まりません。応答したい人らーが集まり、集合知でおすすめ漫画を導き出したろ!的な主旨の試みが随所で行われており、10年以上続いている大規模なものだけでも

などがありまして、「ほいじゃあ、それらにもまだノミネートされてへん漫画を紹介しようやないか」とブログ記事を書いとる途中で「次にくるマンガ大賞」の第3回候補が発表(2017/7/7)

なぬ、では当然、次にくるマンガ大賞ノミネートのマンガも回避じゃーと思うも、「次にくるマンガ大賞」は候補作が100作もあるうえ、まだ単行本化しとらん作品も候補に入っており、正直紹介文書いてた漫画と一部重なってもうていましたよ。でもそれ以外にも面白い漫画はあるんすよ、ええ。というわけで以下、5作品ほど漫画紹介スタート。あー、そろそろ似非方言やめますね。

 

 1.阿部共実『月曜日の友達』(←1話にリンク)

「ランキングや賞に入っていないマンガを紹介する」という体で始めて、最初に『ちーちゃんはちょっと足りない*2阿部共実の新作を出すのはどうかという話ですが、はずせませんでした。

短編が断片的に発表されるばかりの阿部共実の長編作品がようやく始まり、掲載がこれまでの『チャンピオン』・秋田書店系列ではなく小学館の『週刊ビッグコミックスピリッツ』。読者層からして、これまでより一般向けに寄っていくことが求められる媒体で、メジャー路線に順応するんだろうかと心配したファンもいるかもですが、1話から丁寧な日常の拾い上げと「普通」への違和と少し不思議が散りばめられておりまして、これまで+これからの読者層をまとめて打つセンター返し的構成に期待感大。

1巻は8/30発売予定です。

既存コミックスで、どれかを読むならデビュー連載短編集『空が灰色だから』全5巻を推薦。

 

2.岡本倫『パラレルパラダイス』

続いて新作における雑誌移籍つながりで『パラレルパラダイス』。8/4発売予定の1巻の特装版がAmazonで予約品切れになるなど、注目度の高い『パラレルパラダイス』は、『エルフェンリート』、『君は淫らな僕の女王』原作、『極黒のブリュンヒルデ』等で知られる奇才(と称されることの多い)岡本倫の最新作。

デビュー以来「ヤンジャン純粋培養*3」だった岡本倫が『ヤングマガジン』に移籍して、どんな変化があるかと読み始めた第1話の導入部は「男子高校生の教室での日常描写から、突如ドラゴンとか出てくるファンタジー世界に…」って、え? 突如異世界行っちゃう系? 飽和市場で、どう違いを出すんだ? と不安になったのも束の間。転生した異世界には女の子しか存在しないだけでなく、その女の子たちは男に免疫がなさすぎて、男に触れられるだけで全員が「『欲情の泉』と呼ばれる粘液を性器から大量に分泌」して発情するという…。

エロ漫画であってもやり過ぎな感じの設定ですが、とにかくそのビュルビュルと威勢よく吹き出す粘液の量の異常さは他ではなかなか、お目にかかれません。「乳首に吸う以外の何の用途があるんだよ あとはせいぜいおっぱいの賑やかしだ」(2話より)など、独自性のある台詞まわしも顕在で、過去作のように女の子たちが死と隣り合わせの状況に置かれ突然残酷な目に遭いそうな予感もさせて、うん、「岡本倫の」異世界ものです。

ところで、女性器からあり得ない量の粘液が「ビュルビュル」という擬音とともに飛び出す描写は、岡本倫デビュー前の投稿作「Lime Yellow」にもあったので、初期衝動の一部が連載作品として結実したともいえましょうか。その「Lime Yellow」が収録されている愛蔵版の方のFlip Flap*4と同じタイトルの『FLIP-FLAP』という単巻ピンボール漫画もある、とよ田みのる氏の作品が、次に紹介したいマンガです。

 

3.とよ田みのる「金剛寺さんは面倒くさい」(←読めるサイトにリンク)

近年、Twitterでポツポツ書かれていた育児マンガ『最近の赤さん』がキャリアハイ的な注目度を浴びたとよ田みのるですけれども、『タケヲちゃん物怪録』の連載終了(2014年)後、久々に『ゲッサン』に掲載された短編ストーリーマンガ群(2016年)は、読み始めたときにどういう方向にもっていくのかが予想しづらい作品群で、世界観を共有していることも含め、単行本化が待ち遠しいばかりなのですが、2017年7月現在は発売未定のようですので、とりあえずその中の一作、ネットで読める「金剛寺さんは面倒くさい」を推薦。

1コマ目で告白の返事からスタートする入りは、『ラブロマ』を彷彿とさせますけれども、主役二人の設定に一癖あったり、「これは本編と関わりのない物語である」という注意書きが随所に挿入されたりで、落としどころが気になりページをめくる手が進むマンガ。66ページの短編なのでサッと読めます。

とよ田みのる作品を単行本で読むなら、まずはデビュー作の『ラブロマ』を。「恋は始まるまでがいちばんいい」という定説へのアンチテーゼといいますか、1コマ目で告白→即成就してからの物語を紡ぐ、さわやかで熱血な恋愛漫画です。『ラブロマ』はアフタヌーン四季賞大賞受賞作を連載化した作品ですが、四季賞は数ある新人漫画賞の中でも「これまでにない」マンガが見出される率高めな賞なはず(統計取らずに印象で書いてます)。というわけで次も四季賞出身者。

 

4.椎名うみ青野くんに触りたいから死にたい

1巻が6/23に発売した『青野くんに触りたいから死にたい』の椎名うみ四季賞出身。

1コマ目で男女がぶつかった直後に「あーっごめん!」と謝罪された女子が「初めて男の子と喋っちゃった……/わたし彼氏ができちゃうのかもしれない!!」と赤面する1ページ目のツカミに「天然女子の恋愛漫画かな」という無意識予測が働き、その後の描写で読者として恋愛のエモを高めさせられてる途中で…。

切実、悲しい、気持ち悪い、怖い等がないまぜになる展開で、「笑わせようとしてる? …そんな意図はないか?」みたいな判断に迷う絵がぽつぽつあるとこ含め、はらはらと追い続けたくなる作風です。

2巻が早く読みたいですけれど結構先になりそうので、とりあえず8/23発売予定のデビュー作含む短編集『崖際のワルツ』を楽しみにする日々なのは、私だけではないでしょう。

まだ1作目なので関連作品としては、四季賞→『アフタヌーン』本誌連載つながりで1巻が『青野くん~』と同日に発売された同居マンガ・イツ家朗『ミコさんは腑に落ちない』、一途な女子の恋愛暴走つながりで、米代恭あげくの果てのカノン』を挙げておきます。

 

青野くんに触りたいから死にたい』は1話の試し読みのページビューが300000超(1巻帯)ということで、ネットで読んだ方も多いかもしれません。

近頃はWeb連載のマンガも増えまして、私も更新を楽しみにする作品が複数ありますけれども、Web連載の更新を心待ちにする原体験の一つが、2005年頃~のYOKO*5痴漢男』『オナニーマスター黒沢』というマンガ好きは同年代にはちらほらいるはずで、「『ジャンプ』作家を目指す」とWeb更新を停止してから数年、『背すじをピン!と』の原型となる「競技ダンス部へようこそ」が『ジャンプ』に掲載されたときは「とうとう来たなこのときが」感ありましたよね。

 

5.横田卓馬『シューダン!』

背すじをピン!と』の連載終了から4ヶ月、6月から新連載として始まった『シューダン!』は、『キャプテン翼』『ホイッスル!』以降短期打ち切りが続き、『ジャンプ』では鬼門とされるサッカーマンガ(参考記事)ですけれども、ジンクスを破ってくれるはず…。

横田卓馬のマンガは、キャラの思考形式の描き分けと見せ方が上手く、複数のキャラがそれぞれの思惑で同時に動いているシーンがスッと読者に入ってきて、かつ無理矢理感がない(リアリティがある)ところに魅力があると思います。

その実力が遺憾なく発揮された1話は、テンポよくキャラの紹介・見せ場を(脇キャラまで含めて)描きつつ、ドラマのある練習試合を完結までもっていき、完成度が高いと感じました。

横田卓馬と最初に紹介した阿部共実は、『ジャンプ』に投稿歴がある、というつながりを示したあたりで本稿を終えますが、紹介したいマンガはまだまだたくさんありますので、またの機会に。

 

文責:升本雄大

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*1:似た台詞は出てくる。

*2:第18回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞、『このマンガがすごい!』2015年版オンナ編の第1位。

*3:君は淫らな僕の女王ヤングジャンプ掲載時の煽り文句だったと思う。内記コレクションか国会図書館行けば調べられるけど調べてないです。すいません。

*4:岡本倫の短編集『Flip Flap』は2008年の愛蔵版と2014年の新装版で収録作品が違う。新装版は、愛蔵版収録作のうち雑誌掲載のなかった投稿作やネームを外して、愛蔵版刊行後に描いた『極黒のブリュンヒルデ』の元となる短編「きみとこうかん」が収録されている。初投稿作「Flip Flap」が収録されていないので、新装版だけ読むと本のタイトルが何故『Flip Flap』なのかわからない。

*5:横田卓馬がデビュー前にwebで使用していたペンネーム。罫線入りノートに描いたマンガを個人サイトにアップしていた。ジョジョパロ、シグルイパロが多かった。